〜ZIONIC・GUNDAM〜

このストーリーは、当サイトのオリジナルMS『ジオニック・ガンダム』を題材に
ゲストのエルヴィスさんが書き下ろして下さったものです。

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【びぎなーずGUNDAM】

#1 〜ジオニック・ガンダム〜

「こちらSフィールド!連邦軍艦隊が接近!至急増援をっ!」
「GフィールドよりSフィールドへ!こちらの戦力ももう限界だ!そっちで対処出来ないのか?!」
「だ…だめだ…もうもたない!…うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

…通信はそこで途切れた。

宇宙世紀0079、12月31日。

一年戦争と呼ばれた”ジオン独立戦争”は、地球連邦軍の圧倒的な物量によって終焉を迎えようとしていた。
最後の激戦地である、ア・バオア・クー…すでにいくつかのフィールドは連邦軍の手中に落ち、残すは小規模のフィールドを残すのみとなっていた…

「Sフィールドが落ちた!?」

Fフィールド防衛隊長、ビアンカ=ヴォレスタは、帰還直後の管制官の報告に突飛な口調で問い返した。

Fフィールドはア・バオア・クーの反対側に位置し、未だ地球連邦軍の猛攻は受けては居ない、だが部隊を大きく展開している連邦軍の攻撃はこのフィールドにも及んでいた。
その為、エースパイロットでもあるビアンカもモビルスーツ”リック・ドム”を駆り、周辺宙域の防衛に当たっていたのだが、連邦軍の量産モビルスーツ”ジム”の前にはビアンカのリック・ドム1機ではどうにもならなかった…4機のジムを撃破したものの、ビアンカのリック・ドムも多大なキズを負い、やっとの思いで格納庫へ帰還していた…武器は全て打ち尽くし、右腕は肩口から無くなっていた。左足も膝から下が無くなっており、どうひいき目に見ても再出撃は不可能な状態であった。

「はっ!陥落したフィールドにはすでに敵モビルスーツ部隊が侵攻しています。ここの陥落も時間の問題かと…」
「そんなことはどうでもいい!ギレン閣下は何と?」
「はっ!ソーラ・レイ照射まで各部隊は防衛線を維持せよ!との事ですっ!」
「…」

ビアンカはリック・ドムのコクピットソールに拳を叩きつけた。
Sフィールドはア・バオアクー防衛線の中でも唯一堅古な城塞である…それが陥落してしまえばもうジオンに勝利はない…なのにまだ戦えというのか…

「いかがいたしましょう…大尉」

管制官の不安に満ちた言葉に、ビアンカも答えに戸惑った…命令はこのフィールドの防衛とソーラ・レイ照射までの時間稼ぎ…だが、そんなことをしたとしても、連邦軍の勢いには勝てるはずもない。それにこれ以上犠牲者を出してはならない…迷いを断ち切るように首を左右に振り、ビアンカは管制官に告げる。

「…ここは放棄する」
「はっ?今何と…」
「2度も言わせるな!Fフィールドのクルーは全員ムサイ艦に収容、発進準備が出来次第出航せよ!その後は退避ポイントまで全速で後退する!いいなっ!」
「し…しかしそれでは命令違反に…」
「責任は私が取るっ!いいからすぐに出航準備だ!急げよっ!」
「はっ!」

管制官はビアンカの激怒に後押しされるように足早にデッキから立ち去った…
管制官が通路の奥に姿を消したことを確認すると、ビアンカの体は妙な脱力感に襲われた。今まで張り詰めていた緊張の糸が切れた瞬間である。

『…これでよかったんだ…これで…』

未だ震える両手で手摺を握り、自分を納得させるビアンカ…こんな負け戦で兵士が全て戦死してしまえば、ジオンはもはや終わりであろう…それだけはなんとしてでも避けねばならないことである。Fフィールドのクルーがムサイ級戦艦に避難する光景を横目に見ながら、ビアンカは自分を納得させた。

「流石だな…ほめておくぜ」

背後より突然降りかかる声…だがその声の主はビアンカが良く知る人物…ニス=フレデリック中尉である。
ビアンカとニスは士官学校からの友人であった…引っ込み思案のビアンカに対し、陽気なニスは色々な面でサポートをしてくれていた。
地球降下作戦、オデッサ防衛、ソロモン防衛…ビアンカが参加した作戦にはいつも傍らにニスがいて、お互い助け合い、励ましあってこの過酷な戦争をここまで生き抜いてきた戦友である。

「しょうがない…僕にはこんなことしか出来ない…」
「ま、そうだろうな…どっちにしてもこのまんまじゃジオンは負ける…ソーラ・レイを打ったところでどうなるもんでもないだろうしな」
「うん…そうだね。それよりニス、頼んでおいたものは手配できた?」
「ん?もちろんだ。だが…こいつを見たらびっくりするぜ!」
「びっくりする?…まさかゲルググでも手に入ったのか?」
「いや…それよりも強力なじゃじゃ馬だ。D4格納庫に届いているはずだ。行こうか。」
「…分かった」

突如、デッキ内にアラートが鳴り響く…ムサイが全クルーを収容し発進する合図である。
エアロックが開き、ゆっくりと発進するムサイ…ビアンカはそれを横目に見ながら、ニスの後を追いD4格納庫へ足早に去っていった…


「よう!ここだここだ!」
「済まない。待たせたようだな…こ、これは!?」

D4格納庫のデッキスロープに降り立ったビアンカの眼前には、彼が見たことのないモビルスーツが格納されていた…
これまで見たことのない系統である…ゲルググでもギャンでもない…周りが角張った造りは、連邦軍のRX系MSのそれと酷似していた…機体の色は赤く染め上げられ、機体の重厚さをさらに奥深いものにしていた…

「驚いたようだな…こいつは”MRX−78−4:ジオニックガンダム”だよ」
「ジオニック…ガンダム??」
「あぁ。これはあの”ガンダム”のデータを元にして造られたモビルスーツでな。外観こそ違うが中身はあのガンダムと変わらない…」
「そんなものが、どうしてここに??」
「機体の色からも分かるように、こいつは”シャア=アズナブル大佐”の専用機として作られたもんだ…だが大佐はニュータイプ専用機”ジオング”で出撃しちまったもんで、こいつが実験施設に捨ててあったわけよ。んでそこのクルーと一緒に俺がこっちに運んだ…って訳」
「た…確かに化け物だ…」

ビアンカは改めてジオニックガンダムを見渡す…あの”ガンダム”と酷似しているのであれば最新量産機”ゲルググ”など足元にも及ばないであろう…それにこの機体はシャア専用としてチューンしてある。通常設計のガンダムより3倍のパワーを誇る代物である。

「じゃ、そういう事だからがんばってくれ。俺は作戦通り動く。」
「分かった。何から何まで有難う」

ニスはビアンカの言葉に左手での敬礼で答え、乗機である”ゲルググ”に流れていった…ニスの左手の敬礼はビアンカとの士官学校時代からの”シークレットサイン”で、その意味は『絶対に死なない』というものである。ビアンカも流れるニスの後ろ姿に左敬礼を返礼した。

ゲルググが発進スタンバイに入る光景を見ながら、ビアンカもガンダムへと流れる…ガンダムは数人残っていたメカマンが最終調整を行っていた。エンジンには灯が入り、アイドリング状態も良好である…ビアンカは開け放たれたコクピットへ座ると、パネルアクションをして機体情報を確認した…そこへメカマンからの通信が飛び込んで来た。

「大尉。こいつは強力ですから、パワーに振り回されないよう気をつけて下さいね。」
「了解した。何とかやってみる…キミ達もここにいては危ない。私が出撃した後は全クルー退避、合流ポイントまで避難せよ。これは命令だ。分かったな?」
「分かりました。大尉もお気をつけて」
「ありがとう…」

メカマンの交信終了と同時に全ての準備作業が終了し、ガンダムをカタパルトデッキに上げる…現在の戦況は8:2で連邦側が有利…だがソーラ・レイ照射までの時間を稼ぐことが出来れば戦況はまた変化する…負けると分かってはいるが、ジオン兵士を一人でも多く生き残らせる為には、追撃してくる部隊を食い止めなければならない…そのためにはソーラ・レイで一つでも多くの艦隊を沈めておかなければならないのだ。

「ビアンカ=ヴォレスタ大尉!ジオニックガンダム出ますっ!」

ビアンカの乗ったガンダムは、カタパルトを勢い良く滑り出し、いつ果てるとも分からない戦場へその機体を躍らせた…

 

 

 

 

#2 〜黒と赤の戦い〜

「はぁ…はぁ…」

ビアンカは憔悴していた…もはや気力だけでガンダムを操っているといっても過言ではなかった。だが、その鬼神の働きはそれを微塵も感じさせることは無かった。唯でさえパワーとスピードのある、しかも初めて乗った機体を操っているのである…不慣れな機体ながらパワーに振り回されること無くガンダムを手足のように操り、これまでに11機もの敵モビルスーツを駆逐していた。
迫り来る12機目のジムをビームサーベルで一刀する…ジムが閃光に包まれ、闇の中へ消えていったとき、しばらくの静寂がビアンカを包んだ…

「これは…」

不気味な静寂が辺りを満たす…ア・バオア・クー周辺は相変わらず戦火の炎が迸っているのに、ビアンカの周辺だけは妙に静かなのだ…
ビアンカはガンダムの対物熱感知機能を起動させ、周辺区域の策敵に入った…前線からの報告ではすでにソーラ・レイの照射は行われ、敵大将レビルを含む艦隊の半数を損失したとの報告が入っている…そのため敵艦隊の指揮系統は混乱し、戦況はまたも五分の状態に戻っていた…Nフィールドではシャア少佐のジオングが連邦のガンダムと交戦しており、こちらの予断を許さぬ拮抗した状態となっている…

『引き上げた?…しかし、この静寂は…』

対物熱感知機は、未だ敵モビルスーツを捉えていない…それどころか、本隊に撤退するジムの部隊がここから目視できるほどだ。この状況から見ても、敵はこのフィールド攻略を諦め、撤退したと考えてもおかしくはない。だが、ビアンカにはそれが容易に信じられなかった…数々の戦いを潜り抜けてきた”戦士の勘”がそう言わせている。
対物熱感知を切り替え、マニュアルモードへと切り替えた瞬間、ビアンカは自分の勘が正しいことをうれしくも思った。
ビアンカのガンダムの正面には、同じく”連邦の白い悪魔”と恐れられたRX-78ガンダムの姿があったのである…

「こいつがガンダムか…しかし、話に聞いていたものとはずいぶんと違うようだが?」

ビアンカは目視できる距離に佇むガンダムを見て首を傾げる…
話に聞いていた”木馬”に搭載されているガンダムは、白と青を基調とした派手なカラーリングだと聞いていた。だが、今ビアンカの目の前にいるモビルスーツは”黒”…データベースを検索した結果、形状はガンダムのそれには間違いないようだが、データベースに登録されたものとは容姿が食い違っている…肩には大型のキャノンを装備し、右腕には小型のシールドと一体化したビームキャノンが装備されている…全体もごてごてした感じでとてもシャア大佐がてこずるような機体とは思えなかった。

「失敗作か?しかしこちらも逃げねばならない身、手加減などしないっ!!」

ビアンカはスロットルを全開にし、ガンダムの北天に回り込むと、ビームライフルを発射した。
相手のガンダムもそれに素早く反応し、機体を捻ってかわす…と、同時に肩の180mmキャノン砲を連射し始めた。

「うろたえ弾など…効くものかっ!!」

ビアンカのガンダムは大型のシールドを両手に構え、真っ直ぐにガンダムに突進をかける。
キャノンがシールドに直撃し、シールドは四散した!だが、ガンダムの装甲にはキズ一つ付いてはいない。
さすが”連邦の白い悪魔”と異名を持つモビルスーツの原型である…その装甲素材に使用されている”ルナ・チタニウム合金”は多少の衝撃ではビクともしない。
黒いガンダムはキャノンが通じないと見るや、右腕部に装備されたビームキャノンで、回避運動を混ぜながら発射し、ジオニックガンダムの動きを牽制し始めた。だが、スピードに勝るジオニックガンダムにとって、黒いガンダムの射撃は止まっているようにしか見えない。

「こんな動きではガンダムの名が泣くよっ!」

ビアンカは黒いガンダムとの距離を一気に詰め、格闘戦に持ち込んだ!腰のラッチからビームサーベルを取り出し、ガンダムに切り掛かる

”ヴンッッッ!!”

電磁波で形成されたビームの刃は、的確にガンダムの左肩を捉えた!ガンダムの左肩口から右腰までを一気に薙ぐ!だが…ビアンカが黒いボディを切り裂いたガンダムから、別の新しいボディが現れた!
ガンダムを覆う黒のアーマーのボディ部分が露になり、そこには白と黒を基調にしたボディがその顔を覗かせる…

「…!?」

ビアンカの戸惑いには構わず、敵ガンダムは両手足に装備されていた装甲を全て取り外し、その内に眠る力を全て解放した。その姿はビアンカの知るRX系のガンダムであり、色こそ違うもののその存在感は”連邦の白い悪魔”そのものであった…動きに制約のあるアーマーをあえてガンダムの各所に取り付け、耐弾性向上と武装強化を図った機体のようである

「”アーマードガンダム”って訳か…それじゃその力見せてもらおうかっ!!」

ビアンカはジオニックガンダムにビームサーベルを構えさせると、真っ直ぐに突っ込んだ!小細工なしの勝負に出たのだ。だが、アーマードガンダムはその勝負には乗ってこず、頭部のバルカンを連射し距離を取る…

「どうしたっ!アーマーを取り外してその程度か!」

後退するアーマードガンダムを必要以上に加速し追いかけるビアンカ…だが、そこにビアンカの油断があった!
アーマードガンダムは後退を中止し、ジオニックガンダムに対しビームキャノンを発射したのである。

「チイッ!!」

必要以上に加速の掛かったガンダムに細かな動きをさせて紙一重でライフルをかわすビアンカ、だが…アーマードガンダムはビアンカの行動を察知したかのように素早く回り込み、背中のサーベルを引き抜いてジオニックガンダムへ切り掛かったのだ!
回避のために機体に強烈なGが掛かっている状態ではビアンカにもどうすることも出来なかった…ビアンカのガンダムは左椀の肘から下を失った。だが、これだけで済んだのは奇跡といってもよい。並みのパイロットであればビームキャノンの直撃をまともに食らい、今ごろは星となっているであろう…それもビアンカの操縦技術の賜物である。

「くっそ!!」

ビアンカはガンダムにライフルを構えさせると距離を取り、射撃戦に持ち込んだ。だがアーマードガンダムは距離を詰め、一気に勝負を決めようとしていた。ビアンカのガンダムはシールドと左腕を失い、パワージェネレータも低下していた。各関節に設けられているアポジモーターの動作もおかしく、今までのような機敏な動きは出来そうもない…それを知ったうえでのガンダムの行動である…序々に追い詰められていくジオニック・ガンダム…放つビームはアーマードガンダムに一度も当たることなく闇を明るく照らしだすだけである。
大きく離れたガンダムとの距離は次第に縮まり、ビームサーベルが届く範囲にまで追い詰められていた。
アーマードガンダムはバルカンを連射した!ビアンカの視界を塞いだのである。そして肩のラッチからサーベルを引き抜き、ジオニックガンダムに切り掛かる!だが、今度はビアンカもその動きに呼応しサーベルを合わせた!電磁波特有のオレンジ色のスパークが辺りを照らし出す…アーマードガンダムはサーベルを引き戻し、ジオニックガンダムを胴薙ぎした。ビアンカも慌ててサーベルを縦に構え、胴薙ぎを受け止める!だが、不完全なバランスでアーマードガンダムの薙ぎを受けた為、ジオニックガンダムは弾け飛んだ!アーマードガンダムは錐揉みしながら吹き飛ばされていくジオニックガンダムに照準を合わせ、最大出力のビームキャノンを発射した!

「待っていたよ!それをっ!!」

ビアンカは発射されるビームキャノンに対し、ガンダムの右足を差し出した。ビームはガンダムの右太もも辺りを貫通して、ガンダムの膝から下を消し飛ばした。光が生まれ、それが結果的にアーマードガンダムの視界を遮った。

「うぉあああああああっ!!」

ビアンカは満身創痍のガンダムに最後のパワーを出させた!一気にアーマードガンダムとの距離を縮め、サーベルを引き抜いてボディに突きを入れた!ビアンカのガンダムが放った突きは的確にコクピットを捉えていた…黒いガンダムはたちまちオレンジ色に染まっていく…ガンダムの装甲が全てオレンジ色に染まった時、大きな閃光となってその存在を歴史から消した…

「はぁはぁ…」

ビアンカは憔悴した体をシートに埋めた…ジオニックガンダムは傷つき、もはやまともに動くことは出来なかった…推進剤も全て使い果たしている…ビアンカもまた、体力と気力の全てを使い果たし操縦桿も握れない状態である…ガンダムは半ば放棄された戦場をしばらく漂っていたが、数分後ア・バオア・クー防衛部隊に対し、広域周波での通信が飛び込んできた。

『緊急連絡!ギレン総帥が戦死された!今後はキシリア少将が全軍の指揮を執り防衛任務に当られる!全軍防衛線を維持し、連邦軍侵攻に備えよ!繰り返す…』

その放送を聞き、ビアンカはジオン公国の敗北を悟った。
たとえこの場はキシリア少将が防げても、ジオン公国の雄、ギレン閣下が亡くなってしまってはジオン公国はもうお終いである…放送を聞いたとき、あの時の自分の判断が正しかったことをうれしく思った…ビアンカは放送を聞きながら涙を流していた。
放送終了と同時に、死んでいたと思われる策敵チェックモニターが突然開き、味方の識別信号を出すモビルスーツの接近を確認した、こんな宙域でよく見つけてくれたものだ…とビアンカは関心した。

次第に迫り来る味方の色は、ビアンカには懐かしく…そして暖かく感じられた。




このストーリーは、当サイトのオリジナルMS『ジオニック・ガンダム』を題材に
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